休日の電車


あの電車に乗ったらぼくは
もうぐっすり眠るだろう
いっぱい本を詰めた鞄を
足もとに置いて 腕をひろげて

こときれたように気持ちがいいんだ
抜け目ない子供が財布をすっても
ぼくはいっこう気づかず眠る

あたりのみんなも眠りはじめる
おじさんのよだれが座席に落ち
ジャージを履いた女子高生も
子守りに疲れたおばさんも
ぽっかり口を空けたまま



——一羽のルリカケスが
まっすぐに車内を飛んできた

それには気づかずに
いつしかみんな起きるのを
待っている神様は
びんぼうゆすりを繰り返し
そのゆすりがまた眠気をさそうのだ

どうしてこんなにやわらかいのだろう
車窓を素早くよぎる動かぬはらわたは
いっそうやわらかい、ということを忘れるほど
ただ家に帰るだけなのに
海水浴をめざすような気分だ、なんて



——ああ これは家への道ではない
  この乗客はみな 家を失った人々——

気づいたとき僕は
もう列車に乗っており
それから
ずいぶん長いこと揺られていたことも
かさねて思い出していた



最初に起きたおばさんが
いそいそ荷物をまとめはじめる
転がり落ちたミカンをすかさずひろい僕は
——あのう、降りるんですか
と聞く

おばさんは寝ている子どもを一瞥し
——この子を届けにいくんですよ
と言った

聞いたのは僕だけだった
ということが信じられなかった
駅が近づき、音なのかわからない音が車内にも
ごうごう充ちてみないっせいに起きた

おばさんに手を引かれた男の子の
妙に据わった目が僕の目を
見ることはない
眠っていたかったとさえ思わないなんて
悲しすぎると思うひまさえ僕になかった

なぜなら時間厳守だから
乗客がそろえば出発は早まったから
何に急げばよいのかを
考えてはならなかったから

——眠りたいよ、とかわりに言っておやりなさい
  あの子のために

神様が突然ささやいた


ならばどうして走ったか
どうしてこの駅へ届けたか
海沿いの小さな家々に
みんなを運ぶのではなかったか

眠ることを知らぬお前に
人間のなにがわかる


(2026・3・28)

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